「キタァ!お願い、飛んで!」
私を含め、川辺で待機していた多くのカメラマン。おそらく、想いは同じだったのではないでしょうか…
コハクチョウのテイクオフ、それはカメラを構えてから4時間の見守り…待った甲斐がありました。
その4時間前…川のほとり。
気温は氷点下、冷え性の私は湯たんぽ持参で撮影です。
レンズとカメラはまさに氷の塊。グローブを着けていてもシンシンと指先に冷たさが伝わってきます。
まだ眠いよね。
くちばし冷たいの?身体にうずめて温めているのかしら?
それでも、この極寒の水面で生きる貴方の体温、温もりとして私に分けてもらいたいものです。
この川で白鳥を撮り続けているカメラマンさん達とお話をするうちに、真っ暗な川辺も陽が登り明るくなってきました。
陽射しに照らされた白鳥を眺めていると、凍てついた心と指先が暖かみによって溶け出してきそう。
カメラマンさん達とのお話で、白鳥達は川の中程に集まって飛び立つとの事。
クェ〜クェ〜と鳴き声の呼応が次第に大きくなってきました。これが飛び立ちの合図なのでしょうか?
え!?突然。
しかも速い!もっと助走するかと思ってたけど、初速から身体浮いてる。
轟く羽音にしっかりと目が覚めましたが、同時に身体の奥底から湧き立つ感動。
…だって、極寒の4時間、この瞬間をずっと待っていたから。諦めず、帰らなくてよかった。
ファインダーを眺めながらこう想ったのです。
「みんな、みんなカッコいいよ!感動をありがとう」って
野生動物を相手に、人間の勝手な都合で彼等が行動してくれるわけありませんよね。
だからこそ、その瞬間が来るまで、ひたすら見守り、待機する。
諦めの空気が色濃くなった時、まさか飛び立ってくれるとは…
彼等の飛翔を眺めつつ、感動という想いを翼に乗せて、共に飛び立てた気がしたのです。